講演内容・動画
セッション
「日本の少子高齢社会における健康格差の課題と是正の取り組み」
近藤尚己
東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻 保健社会行動学分野准教授(武見フェロー)
日本では近年、高齢者と小児貧困が顕著である。小児では相対的貧困率が約50%と、OECD加盟国でも最大である。我々の分析では、高齢者の所得による死亡及び要介護のリスクの格差はおよそ2倍であり、低所得者・低学歴者ほど社会的不活発で抑うつ傾向が高いなどの結果が得られている。小児では、2008年の世界金融危機後、貧困世帯や一人親世帯の子どもが有意に過体重となりやすいことが縦断研究により示された。こういった健康格差の対策には、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジなど社会保障の再設計が不可欠である。しかし、再分配された資源を社会的なストレスのための喫煙やギャンブルなど健康に寄与しない行動に消費することを避けねばならない。そこで、健康意識が低くても自然と健康的な行動が可能となるような環境デザインや行動科学戦略も求められる。我々は国内の自治体と連携して、お互いのニーズや状況を共有し合い、そのことで、行動経済学的なアイデアを基にした地域での食行動改善介入や検診サービス支援の介入法を考案した。また、地域行政と市民、研究者が有機的に連携させるガバナンス体制構築の効果を検証した。これらが健康格差縮小に貢献し得ることを見出した。少子高齢社会を迎え、常識に縛られない新しい発想の地域介入を、多様な連携によるチームにより構築していくことが不可欠となっている。