当基金について

ごあいさつ

 生存科学は、約40年前、故武見太郎先生が提唱された「ひとり個人の生存のみならず、同時代の地球上のすべての人びと、そして世代を超えて、人類のより健全な、より人間らしい生存を目標として、既存の科学、それも自然科学のみならず社会科学、人文科学、さらには哲学・宗教・芸術までをも含めた全人間的知識の見直しと統合を科学的に行おうとする概念」です。人類生存の形態・機能をマクロ・ミクロの両面から探求するための自然科学と人文社会科学を融合・統合する極めて学際的な新しい学術領域です。 故武見太郎先生は4半世紀にわたる日本医師会長としてその構想の実現に着手され、1975年には、世界医師会長として「医療資源の開発と配分」を提言されました。更に生存科学の発展をはかるため、1982年に生存科学研究会を開催し、ハーバード大学公衆衛生大学院「武見国際保健講座」を設置し、公益信託武見記念生存科学研究基金を設立されました。先生が亡くなられた翌年に公益財団法人生存科学研究所が設立されました。 本基金は生存科学研究に関し顕著な功績のあった者に対する表彰、生存科学研究者に対する研究の助成、生存科学研究の成果の普及、生存科学に関する国際的交流の促進、生存科学に関する研究会及びシンポジウムの開催などを目的としています。1984年から、生存科学の普及・発展を図るために、生存科学とその関連分野で顕著な業績をあげた研究者または実践者を顕彰する武見記念賞と武見奨励賞を授与し、その業績を称えています。

21世紀において、我が国では、少子高齢社会における格差により、自由、民主、公平、人権などの人間の尊厳に関わる価値観は急速に多様化し、混迷を深めています。さらに人類(ホモ・サピエンス)が誕生してから約10万年の歴史の中で、20世紀の急激な科学技術の進歩により、人間の健康のみならず環境破壊や資源枯渇というPlanetary Health「惑星の健康」が危機に曝されています。今、過去の事実から未来を予測し、現代へフィードバックし、未来を制御するという武見先生が提示された“未来からの反射”の概念が求められています。生存科学は21世紀に生きる人類が抱える多くの課題解決を可能にする学問だと考えています。 本基金は故武見太郎先生が提唱された「人間生存の理法」に基づく生存科学の学問体系の構築を図り、学際的研究を推進し、研究者の育成と生存科学の普及と国際交流を促進して参りたいと思います。

運営委員長 笠貫宏

生存科学とは

「生存科学」は、故武見太郎氏が医学の科学的基盤を模索するなかで到達した、包括的、学際的、総合的な学問体系概念モデルである。とはいえ、完結した概念モデルというよりは、むしろ人間について考えるあらゆる人びとにつねに問いかけ挑戦し続ける概念である。武見氏は、医学とは何か、医学は何をなすべきかという問に答えるために、その根幹にある基盤科学として生存の理法に基づく生存科学を構想され、本来は広義の医学概念であるライフサイエンスとして提唱されたものである。 しかし生存科学は医学概念にとどまらない。人類の生存秩序を、個人の生存の場から、集団としての地球的規模における全人類の生存の場まで包括的にとらえようとする学問である。人類の生存秩序には、生物学的秩序、社会経済秩序、精神生活秩序、さらには政治的な秩序があり、それらすべての秩序の中に生物的要素が大きく存在すると考えるのである。 ひとり個人の生存のみならず、同時代の地球上のすべての人びと、そして世代を超えて、人類のより健全な、より人間らしい生存を目標として、既存の科学、それも自然科学のみならず社会科学、人文科学、さらには哲学・宗教・芸術までをも含めた全人間的知識の見直しと統合を科学的に行おうとする試みでもあった。そして、その目的に沿った新しい科学技術やテクノロジーの開発までを包括しようとする概念である。

したがって、従来の縦割りの学問分野を寄せ集めて束ねるのではなく、哲学から分子生物学に至る人文・社会科学、自然科学を包摂して、ミクロからマクロに至る各レベルにおいて、それぞれの分野の理論思考を相互に統合させつつ体系化をはかろうとする、より本来的な包括概念として生存科学は構想された。 武見氏は、あらゆるレベルでの人間の生存を考慮に入れて、本来の意味での福祉を本質的に人類のために考えることが生存科学と呼ばれるに値すると考えられた。生きることは人類のすべての営みの出発点である。誰が、なぜ、どのように、さらに、いかに生存すべきなのか、という問題提起から始まり、個別の生命現象としてとらえるとともに、地球規模で人びとが共存していくために、何を考え、何をすべきなのかを英知を集めるべきである。そのために、生存科学が開発途上国から高度の先進国までを含めて、現状を把握し、未来の方向を作っていく基礎的な学問として成立し、世界的な発展を図る場としてハーバード大学に武見国際保健講座を開設された。 武見氏は、生存科学の現実的モデルとして国内では先進的かつ包括的な地域医療モデルを提示された。さらに地球規模のエコロジー概念を前提とした倫理的アプローチによる健康資源の配分、さらにバイオエシックスやバイオインシュアランスという概念も創出され、現代のわれわれに問いかけ続けている。

信託管理人

信託管理人 蒲野 宏之 蒲野綜合法律事務所代表弁護士

運営委員

公益信託 武見記念生存科学研究基金 運営委員

運営委員長 笠貫 宏 早稲田大学医療レギュラトリーサイエンス研究所 顧問

運営委員 武見 敬三 参議院議員

運営委員 相澤 好治 北里大学 名誉教授

運営委員 加藤 照和 株式会社ツムラ 代表取締役社長

運営委員 木下 勝之 公益社団法人日本産婦人科医会 前会長

運営委員 小泉 英明 公益社団法人 日本工学アカデミー 栄誉フェロー・顧問

運営委員 内藤 晴夫 エーザイ株式会社 取締役兼代表執行役CEO

運営委員 永井 良三 自治医科大学 学長

運営委員 マイケル ライシュ ハーバード大学公衆衛生大学院武見国際保健プログラム 名誉教授

運営委員 松本 吉郎 公益社団法人日本医師会 会長

運営委員 丸井 英二 人間総合科学大学 教授

運営委員 御子柴 克彦 上海科技大学教授・東邦大学訪問教授

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