講演内容・動画
講演 4
「インドにおけるUHC実現のためのプライマリ・ヘルス・ケア:高齢者を含む全ての人々のために」
スジャータ・ラオ
前インド保健家族福祉省 次官 (武見フェロー)
インドの保健システムは細分化されており、病院中心である。その結果、保健システムの根幹としてのプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)は脆弱であり、多くの地域で機能していない。インドは1978年、PHC のためのアルマ・アタ宣言・批准国となったものの、財政上の理由から選択的アプローチを進めて来た。結核、マラリア、ハンセン病などの感染症対策である。単独疾病対策としてのこのような垂直型アプローチは包括的アプローチの発展を妨げてきた。この歪みを正すため、2005年、インド政府は、新たに「国家農村保健事業」を立ち上げた。保健予算を3倍増やし、農村部のPHC 制度を刷新しようとするものである。 同事業では、100万人のコミュニティ・ヘルス・ワーカーと20万人の医療従事者・医療以外の専門家が動員され、それによって数々の基本的な保健サービスへのアクセスが無料となった。リプロダクティブ・ヘルス、小児保健、約12種類の疾患に対する予防接種、感染症その他のマイナーな疾患への治療等である。成果として、妊産婦死亡率、5歳未満死亡率、乳児死亡率は半減し、HIV 罹患率も66%減少した。 とはいうものの、インドにおいては、基本的保健サービス受療が可能になるユニバーサル・ヘルス・カバレッジへの道のりまだ遠い。非感染性疾患の予防、早期診断、専門医への照会のための制度がまだできてない。例えば、高血圧、糖尿病、精神疾患、高齢者医療対策である。これらの課題に取り組んでいくためには新たなスキルやコンペテンシーが必要である。それもコミュニティや外来診療レベルで。今後はテクノロジーを有効に活用し、GDP のわずか1.1% しかない現状の公共投資額をさらに増やしていく必要がある。