講演内容・動画
講演
「UHCの基盤となる生存科学」
永井 良三
自治医科大学 学長
故武見太郎先生によって提唱された生存科学は、UHCのあり方にとっても重要な視点である。武見先生は著書のなかで、バックキャスティング思考、変化に対する医学的および社会的な適応、非決定論的な現実問題への対応、新技術を導入するための社会システム、現実問題から基礎研究へのフィードバック、医学研究における倫理性、高齢社会の社会保障体制などの課題を述べられており、解決策として専門性を超えた学術の必要性を唱えている。 武見先生は中学校時代から仏教説話に興味をもち、慶應大学予科時代には仏教青年会で活動された。当時知己を得たのが、仏教学者でもある友松圓諦師である。友松師の著書には、自然と社会の相互依存性や境界を越えてシステムを改革する精神の重要性が述べられており、いずれも武見先生の「生存の科学」に大きな影響を与えたと推測される。 「生存科学」は、自然科学から生まれた近代医学だけでなく、社会学、統計学、規制科学、行政学などの多彩な学術を包含している。生存科学の多文化性と統合への思慕を理解することは、UHC の基盤としてだけでなく、ポスト近代の医学を考えるうえでも重要である。